<おことわり>
この話は、twitterでのツイートをそのまま掲載したものです。
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朝起きると猫耳幼女に変身していた図書室のyasuは異世界に元に戻る為の手掛かりがあると知る。異世界へ旅立つ猫耳幼女yasuであるが、「幼女一人で旅は危ないから、優しいお兄さんがついて行こう」と何故かついて来る快急同志。そして2人は異世界へ向かう。というお話はロリなのかBLなのか。


朝起きたら頭に違和感。触る。「……ふさふさ?にゃにこれ?」身体を起こして、ベッドの横の鏡を覗く。「ふぇ!?」鏡には猫耳幼女が写っていた。「にゃ、にゃにこれー」そう、自分が猫耳幼女になってしまったのだ。

暫く猫耳幼女の姿で生活はしてみたけどこれでは困ることが沢山ある。なんと言っても……「スガキヤのカウンターにお顔しか出にゃいんです!これじゃあラーメンが食べられないじゃにゃいですか!ぅぅ……えぐっ」「は、はぁ。まあそう気を落とさないで」と快急お兄さん。

「それでね、またもとの姿にもどる方法を何とかつかんだの!」「え、そうなの」「うんー。あのね、山の置くの学校の図書室」「図書室!」「うんー、図書室。その本棚の向こうにね、入り口があるんだってー」「入り口?何の?」「わかんなーい。あ、ねぇねぇクリームぜんざい食べていい?」

列車とバスを乗り継いでやって来たのはとある山奥の小学校。この図書室に例の“入り口”とやらがあるらしい。今日は土曜日らしく、生徒はいない。校舎は「工」の字の左上と右下を切り欠いた、丁度テトリスに出て来るブロックのような形をしていて、その縦棒の部分に職員室はあった。

図書室はその職員室の真上、2階にあった筈。なぜ知ってるかって?それは……「ここねーあたしがしょうがくせーの頃に通ってた学校なのー」「今も小学生っぽいけどなぁ」「いいから、うらに回って。もう8年も前のことだから、変わってるかもしれないけど、入れるところがあるの」

裏のダストシュートから校舎の中に入り、すぐ目の前にあった階段で2階へ上る。図書室は階段を上りきったすぐ右側にあって、不用心にも扉は開けっ放し。8年前からずっと変わっていない。「……ここです」「ここが……その図書室?」「うん。あたしがはじめて通い始めた図書室」

中に入ると、すぐ右横にカウンターがあって、そのカウンターの後ろには棚が据え付けられている。その棚に見覚えのある物を見つけた。「どうしたの?」「だいほんばん……あたしのだったー」「代本板?」「うんー。カウンターの後ろにあるあれ。今はもう使ってないのかな?あたしの」

「もうこの学校もかなり生徒が減ってるみたいだし、代本板も余ってるのかな」「そっかーさびしいね」「うん。でも、何で代本板が自分のだって判ったの?」論より証拠。カウンターの中へ回り込んで、自分のだった代本板を取って来る。「ほらー、ここにあたしの印を彫っておいたの」

代本板の端に小さく彫りこまれた牛蒡星。これがまさに自分の代本板であったことを小さく主張していた。「あ、なるほど。そういうことだったのね」「うんー、こっそりほってたー」「あ、そうだそうだ。で、例の“入り口”ってのは?」「ああーわかんないから探さなきゃー」

「ねえ、もしかしてこれかな?」快急お兄さんが見つけたものは、取っ手であった。それも本棚の中。本と本の間に挟まれるようにそれはあった。600番台、つまり「産業」の棚。かつて自分が一番よく通った棚だった。 「うん!それが“入り口”だと思うー」保証は無いけど確信はあった。

「うーん、うーん」快急お兄さんが取っ手を引っ張っているようだけれど、本棚は動かない。沢山の本が載せてあるから当たり前だ。「手伝ってよー」「あたしそこまで手がとどかないもん」「じゃあ下の方でいいからさ」「わかったー」快急お兄さんの下で本棚を引っ張るのを手伝うことにした。

「……ふぇ、疲れちゃったよー」「ほらほら、もう少し……んっ!」「あっ!」本棚がゆっくりと動き始めた。「これは……扉?」快急お兄さんがつぶやく。本棚があった場所に、扉が現れたのだ。「これが“入り口”にゃのか?」「そう、なのかな……」快急お兄さんはそう言ってノブを握った。

扉は軋みもせずに静かに開いた。「こ、これは……?」「霧かにゃ?」いや、正確には限りなく透明に近い、半透明の“何か”。透明なセロファンを何枚も重ね合わせたときに浮かび上がるあの半透明さを持った何かが漂う空間が扉の向こう側に広がっていた。「入る?」「入り口だからにゃ」

一歩踏み出す前に「ちょっとまってー!……これも持ってく」代本板を脇に抱えた。「せっかくまた会えたんだから、もうこれは手放したくないかにゃってー」「うん。そうだね」快急お兄さんは頷いた。そして一歩踏み出す。――重力が消えた。


猫耳幼女「ねぇねぇ。スガキヤ行きたいー、カウンター届かないのー」服の裾を掴まないでほしい、悔しいけど可愛いから。「で、なに食べたいの」そう、断れるわけもなく。「えーとね、えとね、特製ラーメンとクリームぜんざい!」どうやら、彼というか彼女に遠慮という言葉はないらしい。

特製ラーメンを必死に冷ましながら食べる彼、というか彼女を見ながら考える。入り口ということは、どこかに行くのだろう。いつ戻れるのか、その間どうなるのか。でも、ここじゃないどこかに行けるならそれもいいかも。「…ぇ、ねぇってば!」「え、あ、なに?」「クリームぜんざい食べていい?」


軽快なメロディが新幹線に流れる。ホームに降り立った俺は改札口に向かう。この地に降り立ったのは久しぶりである。なぜ俺がここにいるのかと言うと、趣味仲間の一人が言うには「どうやら『あの人』が猫耳幼女になってしまったようなのです」と知らせてくれたからであった

…それにしても猫耳幼女である。些か緊張しながら改札を抜ける。辺りを見回すと、メガネをかけた人の横に青いワンピースを着た女の子が一緒に立っている。うん、彼らで間違いない。俺はお決まりの声をかけた。−「私だ」 返事は決まっている。「お前だったのか」「にゃ、にゃにゃあ」

改めて猫耳幼女を見ると、白いブラウスと青いワンピース、赤いリボンをしている。「あ、あんまりジロジロみないで欲しいの… 恥ずかしいの…」 俺は、猫耳幼女のモジモジとしながら懇願するように話すその口ぶりにあやうくノックアウトされそうになるのをじっとこらえるしかないのであった

「ここじゃアレなんでどこか喫茶店に行って話しましょう」とメガネのお兄さんが提案する。俺達もそれに同意する。ここらの地理は猫耳幼女が一番詳しいと言うことで彼女に案内してもらうことにする。「ここがいいと思うのー」と案内されたのは、この土地といえばこれしかないという喫茶店であった

「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」と訊かれたので3名と答える。「あ、それと子供用の椅子を用意していただけたら」とはメガネのお兄さんの弁。どうやらラーメンチェーン店に入ったときに猫耳幼女がカウンターに届かなかったというからだという。席に座りながら俺はその光景を想像するのであった

メニューをペラペラとめくる。どうやらモーニングの時間は終わっているようだ。猫耳幼女に何を飲みたいか尋ねると「みっくちゅじゅーちゅがいいの!」。それはそれは愛らしい満開の笑顔であった。店員を呼び、ミルクコーヒー、クリームソーダ、ミックスジュース、それにシロノワールを注文した

「その洋服かわいいね」と俺が猫耳幼女に訊ねると、顔を赤らめながら「ありがとうなのー。あたしチルノちゃんが好きだから女の子になったんだからチルノちゃんになってみたいなと思ったのー」と答えてくれた。憎たらしいほど可愛い。ところでこのメガネのお兄さんがなぜ一緒に行動しているのだろうか。疑問に思ったので訊いてみることにした 

「そういえばなぜこの子と一緒にいるんです?」そう俺が訊ねると、クリームソーダを一口飲んだメガネのお兄さんは何やら改まった口調でこう答えた。「いやね、何か彼女が助けを求めている気がしたんです。それで、気付いたときには新快速に乗ってました」 そう言うと彼は猫耳幼女を見た

「この後どうするんでしょう?」そう彼に訊くと、「この子が元に戻れる方法を見つけたようなんです」と答えてくれた。彼女はその通りだとばかりに頷いて見せた。「一緒に行くんですか?」「ええ。私は彼女に導かれたようなものですから。こうなったらとことん付き合ってやりますよ」

彼女は「お兄ちゃん、ありがとうなのー」と笑顔で答えてくれた。その笑顔は反則ですぜ。「それでは行きますか」と立ち上がる。俺は彼女を椅子から降ろしてあげる。「ところでマロン同志はこの後どうするんで?」そう彼に訊かれた。俺は言葉に詰まる。彼女と一緒に旅をするべきか。それとも…

「正直言ってどうしようか悩んでいるんですよ。彼女と一緒に行ったほうがいいのか、それともこのまま帰ってもいいのか」 そう言うと彼はこう答える。「私はこの子がこの姿になる前にムーンライトえちごの車内で彼と一夜を共にした仲ですから。これも運命と思ってるんです」その答えで決意は固まった

「俺は今日のうちに帰ろうかと思います。確かに一緒に行ってもいいとは思うんです。ただ、それ以上に『待つ』というのも彼女の元の姿を知っている俺にとって同等だと思うんです」俺の答えを聞いた彼はこう答えた。「それも一理ありますね。元の姿に戻ったらまたバカ話しましょう」

名古屋駅の金の時計広場。ここは名駅の待ち合わせスポットと言われている。「それでは行ってきますわ。また今度けんかつで会いましょう」そう言い残すと、彼と猫耳幼女は俺と別れた。彼ならばうまくやってくれるだろう。俺にはそんな思いがあった。彼女が元に戻るのを信じて…


月夜にわたくしが茶葉の調合などしておりますと、中庭の木戸の開く音がいたします。煌々と庭の輝く蒼い夜でした。
窓から庭を見下ろしますと、人影がふたつ。小さなほうには猫耳がついているぢゃありませんか。おそらくは「戻し」の旅の途中の方々ですね。
わたくしは居室に招くことにいたしました。

クリームを浮かべたミルク・ティーと林檎ジャムのサンドイッチをお出しして、経緯をお訊ねしてみます。
「朝起きたらなってたのー、です」
「スガキヤで『ごちそうさまでしたー』をしたら、おでこぶつけたのーです。不便なのー、です」
ほう。見ず知らずの大人には敬語を使おうと…。可愛いですね。

「…人は目に見えるものごとに弱いのですよ」と館の女は言う。「彼女がさらに異形となっても、その想いは変わらずにあるかどうか」「あります、とあなたは言うでしょう。それはたぶん確かにあると信じた心が変わることを知らない若さ故の…残酷」「では試してみるがよろしい」

何を、と問う間もなく館の女は鏡に被せた布を持ち上げた。そこに映るのは、さらに猫に近づいた彼女と、互いに意思の疎通が難しくなりつつある自分の姿。「これでもあなたは自分が幸せだと思うのかしら…」「戻しが間に合わなければいつかは」「とはいえ戻しが終われば彼女もいなくなる」

「あなたは既に進むも退くも修羅の道に居ますれば、その覚悟を。何があろうと後悔はなさらぬよう」
言葉なく立ち尽くす。
スガキヤで服の裾をつかまれたあの時から、そう、ここではないどこかに逃げようとしてさらに深く。
闇か…。いや少なくともここには、寄り添い、頼ってくれる存在が

「彼女が呼んだのです」と館の女に答える。「助けてほしいと、必要としていると。それが唯一の真実だと思うから、旅を…続けようと思います」
館の女は静かに笑うと、眠る彼女の髪を撫で、「それならばおゆきなさい。わたくしの言ったことは、青春の彷徨を妬む年寄りの戯言…」そして長い夜が明ける。


脳梗塞で半身不随になった私の枕元に「猫耳幼女」がとことことやって来た。猫を見ると性格が一変する私は、早速肩甲骨の間の「猫の急所」を爪の先で撫でてやる。

彼女が「戻りの旅」の途中なのは承知しているのだが、動けない私に取り、猫に去られるのは辛い。だからこうしてなつかせてやっているのだ。彼女は眼を細め、喉をゴロゴロ言わせ始めた。こうなればしめたものだ。

私の許を去って行った猫の食べ残しの餌に手を伸ばすと、今や顔を手に擦り付けている彼女の口元に置いてやった。「さあお食べ。食べたらもう二度と人間には戻れぬのだぞ」。

私の顔に現れた子猫を慈しむ表情に、幾らか底意地の悪い色が浮かんだ。−そうだ、お前はもう人間には戻れぬのだ。と、彼女は餌の臭いを一しきり嗅いだあと、フンっと言いたげな顔で縁側から何処かへ去って行った。病床に差す影はもはや何もない。


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