城中電鉄 

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三分割の児童


 遠足。殆どの子供が楽しいと感じる行事であろう。現地に行くまで友達と喋ったりしながら出かけるというのはワクワクすると思う。今回はそんな行事と鉄道に関するお話。

 窪川市立宮代小学校には今年も新しい先生がやって来た。玉川達夫もその一人である。教師生活10年目であるが、転任1年目ということで3年生を受け持つことになった。最初に1年生を担当するのはまだ早いと思われたようだ。
 さて、宮代小学校では3年生の春の遠足で城中市の二の丸公園に電車で出かけることになっている。二の丸公園ということは城電が近いわけで、宮代駅から二の丸公園駅まで城電を利用することになっている。そこで、授業が終わってから、学年主任の山本先生と一緒に遠足の数日前に団体切符を購入することになった。「どうやって購入するのか」を確認し、次の遠足以降に役立たせるためであろう。そんなわけで宮代駅にやって来たのであった。
 宮代駅に到着した。時間は学校が終わって来たので午後3時。ちょうど乗客が少ない時間である。早速窓口にいた駅員さんに来意を伝えると事務所に通してもらえた。
 事務室の中に入ると机があって、駅員さんがそこに座ってと促してくれたので座ることとする。と、同時に慣れた手つきでお茶を入れる機械のところに紙コップを持っていってお茶を注いで出してくれた。ボタンを押すとお茶が注がれるアレである。一口頂く。冷たくて美味い。
 一呼吸置いたところで山本先生が本題に入る。主に今年の児童と教師の人数による団体料金および、当日学校側ではどのようにして駅にいればよいのかということである。宮代小学校の3年生は、今時の少子化と宮代の人口が少ない中で異例の3クラスで103人である。それに引率教師が6人の計109人となっている。ただ、駅員さんが言うには当日休む児童がいるとキャンセル料金がかかるので(そうなると後日返金する際に面倒くさくなるのである)、運賃等については当日支払ってもらって構わないとのことであった。一つ目の議題はこれで完了である。次の対応については当日を見てもらえば分かると思われる。

 さてさて待ちに待った遠足の日となった。天気は晴れ。絶好の行楽日和である。時刻は7時30分。宮代小学校には引率の先生6名が集まっていた。クラスの担当が3人に養護教諭(余談だが非常に若い先生で、容姿もかなりもので、児童に人気があるようだ)、それにクラスを担当していない先生が2名である。つまり、1クラス2人が引率する計算である。
 集合は8時20分で、それまで移動の手順の確認を行ったり、二の丸公園にあるトイレのある場所の確認を行ったりするのである。このように、非常に仕事が多いのである。8時、学年主任の山本先生が「それじゃ、行きましょうか」との声で集合場所となっている校庭に下りていく。
 校庭に行くとかなりの児童がもう集まっている。ちなみに集合は班ごとに並ぶことになっていて、所謂「仕切り屋」となっている班長が「みんなー、並んでー」などと声をかけている。この班は新学期のときに決めた男女混合のものである。しかし10年見ているが、こういうのになるとなぜか女子の方が手際が良いことが分かる。そんな自分も中学の合唱コンクールで女子主導でやっていたからよく分かるのである。時代が変わってもこういうのは変わらないのだな、と思いながら手を叩きながら集合をかけていく。遅れて何人かやってきたので「遅いぞ!」と声をかけてやる。今から怒りでもしたら楽しめなくなってしまうと思ったからである。
 8時30分。学年主任の山本先生がテンプレの挨拶を行い1組から校門を抜けていく。学校の前は車の通りが多いので注意しながら歩いていく。10分ほど歩いて宮代駅に到着した。児童を開いている場所に座るように指示をする。3年生にもなるとテツはいるようで、いろいろしゃべっている。「800形は昔阪神電鉄にいたからシートがいいんだよぉ。800に乗りたいなぁ」とかしゃべっている。「どうせなら特急に乗りたいよね。乗せてくれないかなぁ」 ……それはちょっと。
 8時50分。宮代駅で山本先生が109名分の運賃を支払う。休んだ児童はいなかったようだ。と、同時に駅員さんが降りていく。しばらくすると、駅員さんの指示通りに1組から改札を通っていった。

 数日前に事務所で駅員さんに言われたこと、それはクラスが3クラスでは全員を誘導するには不安であるということであった。というのは、ラッシュ時を避けているとはいえ、車両自体が3両と短いためドアも少なく、スムーズな乗車ができないという可能性もある。そうなると一般の乗客が乗りづらくなる。それでは1組ごとに分散することはできないだろうか、ということであった。ラッシュ時以外でも普通電車が8分に1本運行しているという城電の特性を生かしたものである。
 9時になった。駅員さんが「じゃ、行きましょうか」と言ってくれたので、児童を先導して改札を通る。先頭車両は混むので、2両目で電車の到着を待つようにとのことであった。3分後、折り返しの電車が入ってきた。さっきしゃべってた鉄道マニアの子が「あ! 500形だ」とか言っている。確かに入ってきた電車には「504」とか書かれている。よく知ってるもんだと感心してしまう。
 扉が開いて降りる人が降りてから乗り込むように促して乗る。早速その鉄ちゃんに聞いてみることに。
「どうして500形って分かったの?」 すると、その子はこう答えてくれた。
「500形と800形には貫通扉が付いてるんだよ。それでね、スカートっていう車両の下についているカバーが500形が大きくて、800形は小さいんだよ。だから500形ってすぐ分かったんだよ!」とのことだった。
 自分は電車の知識があまりない。新幹線だって区別できるかすら疑問である。だが、その子が自分に話してくれるときの目はとても輝いていたように感じた。サッカーや野球、テニスなどのスポーツやゲームなどの遊びをする子どもと同じ目をしている。ちょっと自分も電車のことをいろいろ知ってみたい、そんな気がしたのだった。
 二の丸公園駅には9時22分に到着した。改札の脇に少しスペースが開いている。そこにはすでに1組の児童が並んで座っていた。横に整列させた後着席を促した。次の3組は予定では9時29分に到着するはずである。3組を待っている間に1組の担任の先生と話すことにする。
 「いやあ、ウチのクラスに電車に詳しい子がいるんですよ。すぐ500形って分かるみたいですねえ」というと、1組の担任の先生は「まあ昔からそういう子はいましたよ。自分、子どものときは千葉の松戸ってところに住んでたんですが、ええ、中学のときに転校してきたんですけど。でですね、東武熊谷線っていう路線が廃線になるってんで見に行ったって奴がいましてね。で、撮ってきた写真を友達と見ながら『残念だなあ』とか言ってたのがいましたよ。彼今何やってるんでしょうねえ」と話してくれた。いつの時代にも鉄ちゃんはいるもんなんだなあ、と思いながら3組の到着を待つのであった。


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