城中電鉄 

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新居探し

 宮代駅に着き、改札口へとつながる階段を上る。自動改札を抜ると目の前には「ようこそ酒蔵のまち宮代へ」という横断幕が掲げられている。もともと、宮代駅のある窪川市宮代地区は昭和43年に窪川市と合併するまで宮代町であった。そのため、宮代駅の近くには窪川市役所宮代支所があり、窪川の中心ではなくとも人口が多いのである。
 改札口の目の前には出口を知らせる看板が掲げられており、左側に東口の出口と城中電鉄の乗り場案内が表示されている。城中営業所の最寄駅である城中駅に行くには、城中電鉄を使った方が近いのであった。東口への階段を下りる途中に左側に通路があり、そこを曲がると城中電鉄の乗り場が見えた。
 ホームの目の前に売店がある。JRでいうキオスクのような店舗だと思ってもらえればいい。
(…そう言えば、家から持ってきたお茶を飲みきっちゃってたんだよな。1本買うか)
 そう思い、保冷ケースの中からウーロン茶を1本取り出して店員のオバちゃんに見せる。
「140円。」
 オバちゃんは淀みない声で答え、500円玉で支払い360円をお釣りとして受け取った。
 ふと売店の横を見ると、ガチャガチャが置いてある。お金を入れてハンドルをひねるとオモチャが出てくるアレである。その中でも、「カププラプラレール」という、電車やレールやらのガチャガチャであった。懐かしいなと思いながらよく見てみると、何と今から乗る城中電鉄の電車のラインナップがあるではないか。
 そういえば、この前の正月にいとこと会ったけど、アイツは20代前半なのにコレに嵌ってたっけなぁ。「トワイライトエクスプレスの先頭がどうしても出ない」って嘆いてたっけ。それにしても、この赤やオレンジや黄色とかの塗装で先頭車両がダブルデッカーの電車はカッコいいなぁ。コレ出ないかなぁ。さっきのお釣りでいっちょ引いてみるか。
 そう思い、再度財布を取りだして200円を投入。小気味の良い音を立てながら出てくる。カプセルを開けてみると、クリーム色と赤のツートンカラーの先頭車両。紛れもなく城中電鉄の車両であった。附属品として「特急」というシールが付いている。「前枠の白い部分に貼れ」という意味なのだろう。
 これは幸先がいいといっても良いのだろうか、という思いながら、券売機で城中までの460円の切符を購入し改札を通りぬける。電光掲示板では普通鐘ヶ浜行きは5分後に発車すると告げていた。

※このページを作成するにあたって、サマンサさんに許可を頂きました。どうもありがとうございます。

 宮代駅は3面2線の高架駅である。城中電鉄の駅では利用者が多い。向かって左側から番号が振られており、今度乗る普通列車は1番線から乗車するらしい。
「まもなく、1番線に普通鐘ヶ浜行きがまいります。黄色い線の内側に下がってお待ちください」
と、渋い男性のアナウンスが流れる。
 数秒の後、「ピリリリリ、ピリリリリ」という音の後に1番線に電車が入線してくる。黄色がかったクリーム色と赤のライン、貫通扉を備えた3両編成の列車。白色の幕に黒字で「宮代」と書かれている。「プシュー」というブレーキの音と共に停車位置に停車する。それと同時に行先表示が「鐘ヶ浜」に変わった。
 まず2番線のドアが開く。降車ホームだから当然である。その後1番線のドアが開く。今日はそんなに乗客はいないようだ。
 私が乗車した電車は城電500形というらしいのだが、 見たところロングシートのようだ。ただ、ロングシートと言っても座席は硬くなく快適に座れそうだ。最近の座席はコストカットなのか分からないが、座ると腰が痛くなる座席が多く、辛いのだ。その点、この電車は乗客を疲れさせない。いつものように、7人掛けシートの隅を取ることが出来た。
 ホームを見ていると、車掌と運転手が位置を交代するためにすれ違う。頭端式ホーム、終着駅の風物詩である。
 10時2分。駅のホームには列車が発車するという放送が流れている。 到着する時と同じように「プシュー」という音をしながらドアが閉まる。ドアが閉まると「ミョォー」という音とともに電車は駅を発車する。
 電車が加速すると同時にアナウンス。「城中電鉄をご利用いただきまして誠にありがとうございます。この電車は普通・鐘ヶ浜行きです」
 窓からは田んぼが見える。頭には「おいおい、こんな鄙びた街で大丈夫なのか…?」という疑問が出てくる。
「まもなく、倉持、倉持」
アナウンスの後、列車はスピードを落として駅構内に入る。停車位置通りに電車が止まる。やはり乗りこんでくる人は少なめだった。
 倉持駅を出ると、列車はスピードを上げる。
後で知ったのだが、城中電鉄の中で倉持駅と次の停車駅である酒守坂駅間は距離も長く、限りなく直線と言う事もあってか最高速度を出せる区間なのである。列車はありったけの力を振り絞って走る。周りは田園地帯である。「陸蒸気」とはこのことを言うのであろう。そりゃ沿線住民に鉄道が敬遠された理由も分かるというものである。「まもなく、酒守坂、酒守坂」というアナウンスと同時にスピードを落としながら酒守坂駅に入線する。
 酒守坂駅を出るとトンネルに入って行く。これも後で知ったことなのだが、城電唯一のトンネルなので、昔は宮代から城中へは迂回しなければならなかった。それで、酒守坂駅は、「酒を守るための坂」という名前が付けられているのである。城中電鉄が宮代方面に延伸する工事を行った際には、このトンネルを掘削するのが大仕事だったといわれている。
 トンネルに入ると車掌のアナウンスが流れる。
「次は御宿、御宿です。次の御宿駅で特急列車の通過待ちを致します」
 トンネルを抜けると風景は一変し、多くの建物が見える。それもその筈、この御宿地区は、昔は宮代地区から酒守坂より来た大名たちの宿場町として栄えていたのだから。
「まもなく、御宿、御宿」とのアナウンスの後、御宿駅1番ホームに入線した。

 ドアが開くと、かなり多くの人が降りていく。ただ、全員が改札のほうに向かうわけではないようで、特急列車に乗る人が多いようだ。私はそんなに急ぐわけではないため、そのまま乗ることにした。観察してみると、改札口に向かう人は、若い人や家族連れが多いように思える。3歳くらいの子であろうか。父親に手をつながれて嬉しそうにしているのが印象的で微笑ましい。
 「2番線、鐘ヶ浜行き特急列車が参ります」のアナウンスの後、特急列車が入線して来た。自分が乗っている普通列車と色も大して変わらないようだ。流線型でもなく、どちらかというと国鉄185系のような風体だが、どことなく特急列車の風格が漂っているように思えた。電車が入線してくると、ドアの前には駅員さんと思われる人が待機をし、乗客の特急券を確認しているようだ。乗客はそれほど多くないようだが、手捌きはピカイチである。暫くの後、発車ベルが鳴り特急列車は発車していった。特急列車を見送った後、暫くして私が乗っている普通電車も発車した。
 御宿駅を発車した電車は、先ほどまでとは打って変わって住宅地の中を走り抜けていく。これが御宿駅から城中市に入ったと実感させられる一番の光景であろう。風景を観察していると、本当に住宅だらけである。それも、マンションやアパートは殆ど見えず、二階建ての均一な住宅だらけなのである。恐らく「結婚したら泰原台に家を買え」という感じで販売していた名残であろう。そのように考えていると泰原台に到着し、すぐに発車する。
 泰原台駅を発車すると、線路が多く見える。恐らく車庫があるのだろう。景色を見ていると、今まで住宅ばかりの景色が少し変わってきた。橋を渡り、春詠川駅に着く頃には先ほどより景色がのどかになってくる。市の中心部に近いのに、ごちゃごちゃしていない。このようなのどかな景色を見ていると、春の日差しも相俟ってうつらうつらしてくる。こう言う時に端を取れたというのは大きい。人の肩に寄っかかることがないわけで。また、線形も地方私鉄にしてはいい方で、保線もしっかりしていることが良く分かる。
 数分後。「まもなく城中、城中です。JR線はお乗換えです」
 いかんいかん。少し寝てしまったようだ。ただ、気づいたのが着く前でよかった。そう思いながら鞄を手に取り、席から立ちあがる。ドアが開き、城中駅に降り立った。

 城中駅のホームの後方に階段があり、そこから改札へと繋がっているようだ。そこで、階段を昇るとすぐ改札口が見えるので通る。
 改札口を抜けると、西口と東口に分かれており、印刷した地図によると支社は東口にあるようだ。そこで東口方向の階段に向かい降りる。階段を下りると、大きなロータリーがあり、地方都市のそれだと分かる。ロータリーに停車しているバスがひっきりなく発車していく。ただ、会社は駅からそんなに距離がないので歩いていくことにする。
 会社は駅に繋がる大通りに面しているようで、銀行や市役所などが大通りに連なっている。……と、歩いていると5階建てのビルが見えてきた。下にコンビニが入っている構造のようだ。会社に入るには、ビルの横にあるエレベータを昇るようだ。エレベータで2階まであがり扉が開くと、すぐスチール製のドアに会社名が記しているドアが見える。ノックして入室。
 右側に若い女の人が受付のような業務を行っており、私が来意を伝えると通してくれた。支社長との話は奥の応接室で行うらしいので、案内してくれる。ノックをして入る。
 支社長は、「遠いところお疲れ様」とねぎらってくれた。しばし歓談の後、支社長に「家を探さなければならないので」と伝えると、会社に近い不動産屋を紹介してくれるというので、ご好意に甘えることにした。不動産屋は駅のすぐ近くにあった。支社長は不動産屋の前に来ると、会社に戻っていった。
 店内に入り来意を伝えると、若い男の人が担当してくれるとのこと。
 予算と、4月より入りたいことなどを伝えると、春詠川駅から歩いて5分程度のアパートを紹介してもらった。1DKで3万8000円とのこと。
 「善は急げ」ということで不動産屋の車に乗り、アパートに向かうことに。車の中では、不動産屋の人と四方山話をしながらなので、乗っている時間はそんなに長く感じない。そんなわけで、春詠川駅近くの物件に到着。「春日荘」というらしい。
 中はフローリングで、値段の割りには掃除がちゃんと行き届いているようだ。平成2年に完成した築20年以上らしいが、そのようにはあまり感じない。外もそんなに騒がしくなく、かといって不便というわけでもないようだ。いい物件である。
 私はここにすることを担当者に伝えると、さっそく契約しようということになり、一旦不動産屋に戻ることとする。不動産屋に戻り、契約書にサイン。これで4月からの住処を手に入れることに成功した。
 契約が終わると、もう夕方になっていた。今から帰るにしてにも、遅くなってしまうのでビジネスホテルに宿泊することにする。
 そこで、城中駅前にあるビジネスホテルにチェックインをし、これまた近くのファミリーレストランで夕食を食べ、そのまま寝ることに。
 翌日、支社により帰宅の旨を伝え、午前10時6分発の宮代行き普通列車で城中駅を発った。
 新居入居まで残り2週間。自宅に帰って荷造りが始まる。

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