城中電鉄 

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プロローグ
 「ちょっと来てくれるかな」… この言葉を聞いてから約一ヶ月が経過した。東京の中堅私立大学を卒業後、この会社に入社してから4年が経過した。会社の先輩によると、慣例では総合職の社員は5年以内に転勤があり、その転勤をふまえたうえで出世しているらしい。直属の上司である営業課の課長に呼ばれると、些か緊張してくるものである。ちなみに、営業課といっても外歩きを行い、契約を取り付けるような仕事ではなく、現在お付き合いしている企業に出向いてチェックをするというのが主な仕事である。
 上司に呼ばれて、部屋を出て会議室に入ると上司がこう口を開いた。
「城中営業所が言うには、営業所に欠員が出たらしいので誰か一名寄こして欲しいらしい。今更新規採用を行ったところで、釣り合わない。そこで、城中営業所の方に4月から勤務して欲しい」
 会社には、東日本一円に支社があり、北は仙台から南は名古屋までの約20の支社がある。城中営業所は、社員の人数27名で一番こじんまりとしたところだ。他の支社には寮があるのだが、城中営業所には寮がない。家賃の補助があるとはいえ、こういう所も他の支社に比べて格が落ちるといえよう。
 ……そういえば先輩が言ってたっけか。「城中営業所」は飛車角落ちの社員が配属されると。
 だが、考えようによってはいいことがあるかも知れない。人数が少ないということはそれだけ仕事の量も少ないわけで、毎日終電で帰宅する事もないだろう。また、自分自身あまり多くの人と付き合うような性格でもないので、向いているのかもしれない。
 という風にして城中営業所配属が決定し、3月15日に正式に辞令が出ていよいよ4月から新しい地で仕事が始まるわけだが、その前に住む家を決めなければならない。
 というわけで今日は営業所への挨拶回りを兼ねて新居探しへとやって来たのだった。

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