ケモノミミ カーニバル 何かがおかしい。 そう思ったのは、仕事を終えて家に帰ろうと城中駅のホームに降り立った時であった。 夕方のこの時間、いつもならばスーツ姿の会社勤めの人達が家に帰ろうと列車を待っている時間である。 私もそのうちの一人なのだが、そういう人たちはいることはいる。ただ、今日に限ってはそれ以上に小さい女の子を連れた人が多いのだ。そして、驚くことにその女の子には尻尾が付いているようなのだ。 アレか。いわゆるコスプレというやつか。 しかしこの辺でそういうイベントをやっているというのは聞いたことがない。 ふと改札を見ると、ぞろぞろと色々な形の獣耳をつけた方たちが入ってきた。 狐耳を付けたツアーコンダクターと思われる人が切符のようなものを配りだしている。どうやらツアーまで開催されているらしい。 そこへ一人(?)の猫耳の女の子と狐やイタチや犬などの耳をした集団がやってきた。 「列車の中で仕方ないことをしたいですなぁ、ウッヒッヒッヒ……」 「ですなあ。実は、『たてにゃま』を持ってきたのですよ」 「おおおっ、それは素晴らしいですのぅ」 「まるで酒飲み支部ですなあ。ウッヒッヒッヒ……」 「いいなあ。あたしも仕方ないことしたいよぅ……」 「誕生日は12月だっけ。そしたらその時に赤羽あたりで仕方ないことをしましょうや」 「うー。いいなぁ」 段々頭が痛くなってきた。 そして、極めつけの会話が獣耳の男性二、三人が話していることを聞いた時であった。 「今日は現役犬耳女子高生アイドルが登場するらしいです」 「ウホッ、それは素晴らしいですなあ。フォヌカポウ」 「いやはやチケットが取れて良かったですな」 するとそこへアナウンスが流れた。 「間もなく、2番線に臨時列車が2つドアでまいります。危ないですから黄色い線の内側までお下がりください。この列車はケモノミミ専用列車です。ご乗車の際には駅係員に乗車券をお見せいただきますよう、お願いいたします。」 入線してきたのはまさしく城電の300形である。 ただ、窓から中を覗いてみると畳が敷いてある。300形は転換クロスシートだけの筈ではないのか。たまらず車掌さんに聞いてみることにした。 「すみません、ちらっと窓から見たんですが、畳が敷いてあるのはどういうことなんでしょう」 すると車掌さんはこう答えてくれた。 「それがね。実は私たちも詳しく知らないんですよ。3日前あたりにいきなり『悪いが1両分3日後までに畳の座席に改造して欲しい。改造費用はこちらで払う。振込先は以下の通り』という連絡が来たらしいんです」 どうやら謎の組織があり、そこからの指示らしい。謎は深まるばかりである。 ただ、なぜ畳敷きに改造して欲しいという指示があったのかはすぐに分かった。切符を特別に配置されている駅員さんに見せた猫耳幼女たちは靴を脱いで畳に寝転んでいるようなのだ。別にダジャレを言っているわけではないことは理解して欲しい。 そして大人の獣耳たちは座席の車両に入っていくのだ。 獣耳たちがぞろぞろとその車輌に入っていき、いつの間にかホームには私一人だけが取り残された。 ちなみに、私がこの列車に乗ってもいい旨を車掌さんに尋ねたところ、「獣耳の方以外は乗車できないんですよ」と断られてしまった。 いつもならば無機質な発車ベルが鳴るところで軽やかなメロディが流れドアが閉まった。 列車はそろそろと静かに発車していった。 …… 「……という夢を見たんですよ」 「って、なんつー夢を見てるんですか。最近疲れてるんじゃないですか」 「うーん、そうかもしれないなあ。って、そういうけど変な夢見たことない?」 「そういや、俺もこの前変な夢見たんですよ」 「やっぱあるんじゃん。で、もしやと思うけど、地球が大洪水に襲われた夢を見てオネショしちゃいましたー、とかそんな話じゃないよな?」 「違いますって」 気分が滅入っていると獣耳が生えてきてほしいと思うことがある。 そして、どこかに旅に出かけたくなる。 夏休みには夜行列車に乗って北陸でも行きたい、そう思った初夏のお話。 |