俺々架空鉄道探訪・害吉鉄道編「意識のない鉄道」
私が目覚めたとき、そこは多くの人と独特の臭いで埋め尽くされていた。 「あれ…… 俺は新世界にいたはずなんだけど……」 ゴールデンウィークの休みを利用して大阪に旅行に来たのだ。 昼食に串カツを食べようと新世界を歩いていた。記憶が正しければ。そして、今いる場所は記憶が正しければ、今まで一度も行ったことも見たこともない場所なのだ。 辺りを見渡すと、巨大な電子時計と『あかつき 京城』、『ほうせんか 青森』、『快速レミング 海ケ原』なる行き先が描かれた表示があった。スピーカーからはしきりに六甲颪が流れている。大阪タイガース? まあいい。 すると、恐らくここは駅なのだろう。しかし、ここには一度も訪れたことはない。 日本地図の下にずらっと並んでいる、窓口と思われる場所で恐る恐る聞いてみることにする。 「あの…… ここってどこなんでしょう?」 「アンタおもろいこと聞くんやな。ここは宇宙に轟く害吉鉄道の大阪ユニオン駅やないの。で、アンタどっから来たの」 害吉鉄道……? 聞いたことのない鉄道だ。しかし「大阪ユニオン」というくらいなのだから大阪には間違いなさそうだ。まさか厚木と名乗っておきながら所在地が海老名だとかそういうのではないだろう。 「私は、新世界を歩いてたと思うんです、多分」 「するとカマの近くやね」 「えっと、カマっていうのは」 「アンタ、カマを知らんの? カマってのは労働者街のことやないか。まあええわ。とりあえず新世界はそこから近いから、首都圏電鉄の太平洋本線に乗って釜ヶ崎駅っていうところで降りればええから」 ……またよく分からない単語が飛び出した。大阪なのに首都圏。謎が深まるばかりである。 言われるがままに切符を購入して、言われるがままに乗り場に向かった。 しかしここ(先ほど「大阪ユニオン」とか言っていた記憶がある。現に持っている切符にも「大阪ユニオン」と表記されている)は凄い混雑ぶりである。 「間もなく、洲本行き快速が参ります」なるアナウンスとともに列車が入線。 驚いたことに屋根に乗っている人もいる。もっと驚くことに、自分以外にその光景に驚いている人が一人もいないようなのだ。恐らく日常の光景なのだろう。 ちゃんと中に入れるだろうか。心配になってきた。 ドアが開くと同時に人が吐き出された。言い方は汚いが、まさしく濁流のように人が溢れ出てきたのだ。しかし屋根に乗ってる人はうまい事降りるもんだな。 私は何とか乗れたが、車内で身動きが取れない状態である。東京のラッシュ以上だ。電車に乗るにもこんなに体力を使うとは思わなかった。 ……しかし何だ。これちゃんと釜ヶ崎駅で降りられるのか。乗客に押しつぶされていると意識がなくなった。 ……… 「あ、起きたようやね」 「えっと、ここどこなんです?」 「ここは天王寺のJR病院や」 聞くところによると、新世界の路上でうつぶせで倒れているのを通行人が救急車を呼んでくれたらしい。どうやらスマートフォンを見ながら歩いているときに段差につまづいたというのが真相のようだ。 そして、今は翌日の朝ということらしい。 「アンタ、ずっと意識がなかったけど、どんな夢見てた?」 診察の際に医師がそんなことを聞いてきた。とりあえず「覚えてません」と答えておいた。 言わないでおこう、そう心に誓った。 |